部活

3/3
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「……ラ、ライン」 あたしはうわずった声で答えた。 「……なんでライン返してくれないの?」 「あ、そっか」 タチバナは、今気づいたというように、まばたきをして、 「ごめん、普通は返すよね」 「うん、すぐ返すよ。普通はね!……あたし嬉しかったのに」 ちょっと言ったら、言葉があふれた。 「つきあおうって言ってくれて、嬉しかったのに。 からかわれただけだったのかなって。 あたしだけ、一人で浮かれて……」 あたし知ってる。 タチバナは、自由で気まぐれだ。 こんなふうに言ったら、重い女だって思われるかも。嫌われちゃうかも。 「きのう、眠れなかった……」 あたしがうつむくと、タチバナが、ため息まじりに苦笑した。 「分かった。悪かったから。ごめん。機嫌直して」 ぐいっとあたしの手を引いた。 小さなあたしは、吸いよせられるように、タチバナの胸のあたりに顔をうずめる形になって、すっぽりと収まった。 タチバナはやせて見えるけど、くっついてみたら、腕も胸も男の子らしくって、 ……あたしの正直な心臓は、トクトクと音をたてて鳴り始めた。 きれいな指が、あやすように、何度も髪をなでてくれる。 ……きのう、眠れなかったからかな。 なんだかアタマがぼうっとして……、 ああ、あたし、こんなふうにされて、嬉しいんだ……。 すごくすごく嬉しいんだ。 「タチバナ……」 「機嫌なおった?」 「……うん」 「それはよかった」 「……でも恥ずかしいよ」 顔をあげたら、タチバナは、甘い目をして、フフッと笑った。 「じゃあもっと恥ずかしいことしよう」 「し、しない」 「目え、つぶって」 プレハブの部室棟。 ニセモノの夜景のパネルの前で、星が降るみたいな優しいキス。 ああ、ダメだ。好き。 なんだか完全にタチバナのペースだけど、あたしのほうが好きなんだから仕方ない。 もうどうにでもしてください。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!