11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「……ラ、ライン」
あたしはうわずった声で答えた。
「……なんでライン返してくれないの?」
「あ、そっか」
タチバナは、今気づいたというように、まばたきをして、
「ごめん、普通は返すよね」
「うん、すぐ返すよ。普通はね!……あたし嬉しかったのに」
ちょっと言ったら、言葉があふれた。
「つきあおうって言ってくれて、嬉しかったのに。
からかわれただけだったのかなって。
あたしだけ、一人で浮かれて……」
あたし知ってる。
タチバナは、自由で気まぐれだ。
こんなふうに言ったら、重い女だって思われるかも。嫌われちゃうかも。
「きのう、眠れなかった……」
あたしがうつむくと、タチバナが、ため息まじりに苦笑した。
「分かった。悪かったから。ごめん。機嫌直して」
ぐいっとあたしの手を引いた。
小さなあたしは、吸いよせられるように、タチバナの胸のあたりに顔をうずめる形になって、すっぽりと収まった。
タチバナはやせて見えるけど、くっついてみたら、腕も胸も男の子らしくって、
……あたしの正直な心臓は、トクトクと音をたてて鳴り始めた。
きれいな指が、あやすように、何度も髪をなでてくれる。
……きのう、眠れなかったからかな。
なんだかアタマがぼうっとして……、
ああ、あたし、こんなふうにされて、嬉しいんだ……。
すごくすごく嬉しいんだ。
「タチバナ……」
「機嫌なおった?」
「……うん」
「それはよかった」
「……でも恥ずかしいよ」
顔をあげたら、タチバナは、甘い目をして、フフッと笑った。
「じゃあもっと恥ずかしいことしよう」
「し、しない」
「目え、つぶって」
プレハブの部室棟。
ニセモノの夜景のパネルの前で、星が降るみたいな優しいキス。
ああ、ダメだ。好き。
なんだか完全にタチバナのペースだけど、あたしのほうが好きなんだから仕方ない。
もうどうにでもしてください。
最初のコメントを投稿しよう!