お弁当

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お弁当

ほけー。ほけー。ほけほけほけー……。 「小峰。よだれが出ておるぞ……」 同じクラスの山吹が、腰に手を当てて言った。 キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴っている。 お昼休みなのだ。 「山吹。どうしよう。あたし幸せで死んじゃうかも」 「よかったなあ。昼メシ、食って太ったら?」 「もう胸がいっぱいで、お弁当しか食べられないっ!」 タチバナは、もうお昼食べたのかな? 一緒に食べたいなあ……。 タチバナのクラスは、お隣の三組だ。 行ってみちゃおうかなあ……。いいよねっ。 あたしは、りぼん結びのお弁当を手に、いそいそとお隣の教室まで足を運んだ。 ちょっと緊張。 タノモー! ってな勢いで、ガラガラ教室の扉を開ける。 タチバナはひとりで、窓際の席に座り、頬杖をついて窓の外を眺めていた。 長めの黒髪と、涼しげな一重の瞳が、アンニュイな雰囲気をかもしだしている。 さすが演劇部のホープ……。 ぼーっとしてるだけで絵になるわあ……。 「あ、」 あたしの視線に気づいて、タチバナは軽くまばたきした。 「あのっ。一緒にお昼食べない?」 「ああ……」 あたしは駆け寄り、空いていた前の席を勝手に拝借して、腰かける。 タチバナの机の上には、グミの袋がポツンと置いてあった。 ちょっと神経質そうな長い指で、グミをつまむ。 もしかして。 「もしかして、お昼それだけ……?」 「なんか食べるの面倒くさくて……」 「えーっ?!」 あたしは叫んだ。 食べるの面倒、なんて、だめじゃない? ハラが減っては戦はできぬ、ご飯を美味しく食べてこそアレじゃない? 「ダメだよう。なんか食べて。あたしのお弁当、半分食べて!」
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