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あたしは、フタをパカッと開けて、お弁当箱をタチバナの目の前に突き出した。
ミニハンバーグ。卵焼き。ブロッコリー。ミニトマト。俵型おにぎり。etcetc……
タチバナがお弁当をのぞきこむ。
「へーすごい。もしかして、これ自分で作ったの?」
「えっ。あっ。ウン……」
「じゃあちょっともらおうかな……どれどれ」
タチバナが、卵焼きを指先でつまみ、口に入れた。
モグモグと咀嚼して言う。
「うん――うまい」
そ、そりゃそうでしょうよ。
主婦歴二十年、うちのお母さんが作ったんだから。
「お、おにぎりも一個食べて」
「ウン」
あたしは、ぼんやりとその口元を見つめた。
目が合うと、タチバナがほほえんだ。
目の横に、くっきり笑いじわが刻まれる。
ああ。
いつもあんまり笑ってくれないのに。
いま、ここでそんな笑顔を見せるとは。
自分の嘘に絡めとられて、心臓がギュウッとした。
ごめんね。
今度は、ちゃんと作るから。
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