11人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
告白
「タチバナ、あたしとつきあって」
秋の日の放課後、正面玄関。
タチバナは、スニーカーのかかとに指先をつっこんで、「え?」と言ってあたしを見た。
一重の目を軽く見張って、くちびるの間を少し開けて。
あたしは、思わず目をつぶった。
残像が、ユラユラまぶたの裏で揺れる。
いくつも並んだ背の高い靴箱、ほんのり漂う靴のにおい、遠くから響いてくるブラスバンドの練習の音。
「……今度は何? ベニヤ? 角材?」
「何って」
「買いにいくんだろう?
そういや山吹に言われてた。小峰が資材買うから付き合ってやれって」
タチバナは気だるげに腕時計に目をやると、ああ今日はサボろうと思ったのに……、などとボヤいている。
あたしは一瞬ポカンとし、それからあわてて笑顔を作った。
「そ、そうなの、買出し! 付き合ってくれるよね!」
心臓がバクバクしていた。
悟られないように、あたしはうつむいてローファーのつま先をトントンする。
あたしたちは演劇部員だ。
公演で使う大道具のパネルを作るために、以前も買出しに出たことがあった。
そのときは山吹も一緒で、顧問の車に乗って、だったけど。
だけどあたしが今日「つきあって」って言ったのは、もちろん買出しに、なんかじゃなくて……。
最初のコメントを投稿しよう!