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「ねえ、この手紙何?」
夏の暑さが今年も孫たちをこの家に連れてきてくれた。
「どれどれ?」
「仏壇に置いてあったの。これ誰宛?」
「あぁ……。そんなものもあったね。すっかり忘れてた」
手紙を書いた時からもう十年近くも経った。
孫たちは元気なままそれぞれ成長していき、負うた子に教えられるという状況も増え、孫も六人になり、その六人目の孫もこの春小学生になった。
「あ、これ後ろ。おばあちゃんの名前書いてある!」
「そうね……。それはね、おじいちゃん宛の手紙だよ。大事なものなの」
十年前とは違い、もうペンを持つことも難しくなり、布団に寝ていることの方が多くなってしまっていた。
「懐かしいね」
「めっちゃ埃被ってたけど、いつの?」
「さてね。いつだったかな。十年も前だったかな……」
「十年!? え、気になる。さすがに読んじゃダメだよね?」
「ふふ。ダメよ。恥ずかしいじゃないか」
「む~」
夏の生温かい風に頬を撫でられ、その風につられるように庭の方に目を向けると、懐かしい人の影がそこにあった気がした。
あぁ……。やっと、帰って来てくれた。
嬉しいはずなのに涙がこぼれ、伸ばしたいはずなのに腕が動かない。たくさん言いたいことがあるのに、何も言葉が出てこない。
おかえりなさい。私の大好きな人。
私だけの愛おしい人。
布団の横でまだ賑やかにしている孫の声が徐々に遠退いていき、狭まる視界の中で、愛おしい人影は、庭で元気よく咲いた向日葵に囲まれ不器用に笑っているような気がした。
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