ヒュプノスの扉

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 それは、初めてここに来たその日に知ったことだった。 「暗闇?」 「そう、暗闇」  誰だったかもわからない。  けれど確か、とても優しい声をしていた。  優しい声で優しくて笑って、柔らかな陽だまりを思わせる口調で教えてくれた。  ──向こうに見える丘の上に赤い屋根の家がある。  その家の中では "見届け人" が待っていて、訪れた者は特別な部屋に案内されるという。  ある条件を満たして、そしてある条件を受け入れたとき、その奥にある部屋へと通してもらえるのだとか。そしてそれを、"暗闇" と呼ぶ。  それは、一日99人限定の──。 「、サービス?」 「そう。そう言うに相応しい。それも、たった一度だけしか使えないの」  だから、経験した方が良いよ。 「……そう、言われても」  正直、"だから" の意味が分からなかった。  一回しか使えないとして、だとしてもそれはそれ、これはこれ。むしろその一回を大事にしないといけないからこそ、本当に必要になるまでは経験すべきではないと言うのが正しいのではないか。その瞬間を見極めるべき、と教えるものではないだろうか。  そう思って首を傾げたけれど。
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