感触屋

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『感触屋』 『一生に一度はあの感触を味わってみたい』 『30年も前に味わったあの感触をもう一度味わいたい』 『触れないんだけど、どうしても触ってみたい』 ・・・  あなたのそんな夢を実現します!  こんな宣伝文句に踊らされて、私は高層ビルの最上階にある『感触屋』を訪れた。  エントランスで美人のスタッフが感触屋の説明をしてくれる。 「最新鋭の3Dグラフィックスと全身に取り付けた感触センサーによってあなたの望み通りの感触を味わうことができます」 「なんでも再現できるんですか?」 「はい、なんでもです。ただ、全身で感じたい場合は料金が少々お高めになりますが、体のごく一部ならばリーズナブルなご予算で体験することができます」  そんな説明を受け施設を案内される。奥の部屋ではたくさんのカプセルが並び、もう一度感触を味わいたいと願う人がそのカプセルの中で感触を楽しんでいた。 「あちらをご覧ください」  そう言われて見ると、ツルツルに禿げ上がった人がカプセルの中で何度も頭に手を当てていた。 「あのかたは、無くしてしまった頭髪のふさふさの感触を楽しんでいます。こちらは4万円になります」 「あちらをご覧ください」  そこでは、引き攣った顔で手をわしゃわしゃさせている人がいた。 「あちらの方は、ライオンのたてがみを触った感触を楽しんでいます。こちらは8万円になります」 「そしてあちらは」  顔を背けながらも嬉しそうにしている人がいた。 「あちらの方は、亡くなったお父様の髭のジャリジャリを楽しんでおられます。こちらは20万円です」 「へぇ、なんでも味わえるんですねぇ」 「えぇ。特に人気なのが、母親に抱っこされた時の感触をもう一度味わいたいというもので。これは全身なので100万円と少々高価になります。あと人気なのが初恋の女性とキスをした時の感触、これは意外にリーズナブルで2万円です」 「髪の毛より安いんですね」 「えぇ。唇だけですから」 「お客様はどうなさいますか?」 「私も感触を味わいたいのですが・・・。その、あまり持ち合わせがありませんので」 「大丈夫ですよ。どのような感触をご希望ですか?」 「何か、その、美女と」 「美女と?」 「触れ合うような・・・」 「あぁあ。そういう方はとても多くいらっしゃいますよ」 「やっぱり」 「えぇ。全身ですと、100万円からとなりますが」 「あぁね。そこまでの予算が・・・」 「それではいくらぐらいのご予算で考えていらっしゃいますか?」 「できれば、安ければ安いほどいいのですが・・・」 「50万円」 「いえいえもうちょっと少なめで」 「10万円」 「もうちょっと少なめで・・・」 「一万円」 「もうちょっと・・・。初めてなので、効果もよくわからないので、例えばお試しなんてものがあると一番いいのですが・・・」 「お試し、ですか・・・」 「ありますか?」 「ないこともありませんが」 「あるんですか?」 「しかもタダで」 「タダで?」 「えぇ」 「美女?」 「美女です」 「それではそれでお願いします」 「分かりました」  と言うと、この美人のスタッフが突然この男をビンタした。 バチン! 「痛ぁぁぁぁ!」 「いかがでしたかこの感触は?」 『感触屋』でした。
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