8人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの花……君に似てた」
「……あの牡丹? どうして? あんなに大人っぽくないよ」
「大人っぽい? あの牡丹を見て、君はそう思ったんだ」
「あなたは違うの?」
やっと暖まった、乱れたシーツ。爪先までしびれた体は、まだ波間を漂っている。あなたの肌を感じる背中が、暖かい。
「あれだけ、血がかよっているような気がしたんだ。両手で包んだら、ふわっと暖かくて、息までしているんじゃないかと思うほど。だから……」
その後、しばらくの間沈黙が続き、窓をうつ雪の音だけが響いた。
眠ってるの?
ふと体をずらした時、引き留めるかのように力いっぱい抱きしめられた。
身体が、溶けるかと思った。何故だか急に泣きたくなって、涙があふれてきた。もう、自分でもどうしたらいいのか判らないほど、力が抜けて、このまま消えてしまうような気がした。否、このまま死んでしまいたいと心から願った。
この崩れていくような快楽を「幸福」というのであれば、これが続いている間、私は人間でなくなる。それでも、泣けてくるほど心地よかった。
「……あついよ。どうしたの?」
あなたが耳元で囁く。
雪囲いの菰かぶりの下、血のように赤い花が咲く。
カチカチと窓をうつ音。吹雪いてきたのだろうか。
溶けていくのか。散っていくのか。
深い、熱い溜息をついて目を閉じる。
甘やかな白檀の薫り。
溶けて。
最初のコメントを投稿しよう!