雪中花

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「あの花……君に似てた」 「……あの牡丹? どうして? あんなに大人っぽくないよ」 「大人っぽい? あの牡丹を見て、君はそう思ったんだ」 「あなたは違うの?」  やっと暖まった、乱れたシーツ。爪先までしびれた体は、まだ波間を漂っている。あなたの肌を感じる背中が、暖かい。 「あれだけ、血がかよっているような気がしたんだ。両手で包んだら、ふわっと暖かくて、息までしているんじゃないかと思うほど。だから……」  その後、しばらくの間沈黙が続き、窓をうつ雪の音だけが響いた。  眠ってるの?  ふと体をずらした時、引き留めるかのように力いっぱい抱きしめられた。  身体が、溶けるかと思った。何故だか急に泣きたくなって、涙があふれてきた。もう、自分でもどうしたらいいのか判らないほど、力が抜けて、このまま消えてしまうような気がした。否、このまま死んでしまいたいと心から願った。  この崩れていくような快楽を「幸福」というのであれば、これが続いている間、私は人間でなくなる。それでも、泣けてくるほど心地よかった。 「……あついよ。どうしたの?」  あなたが耳元で囁く。  雪囲いの菰かぶりの下、血のように赤い花が咲く。  カチカチと窓をうつ音。吹雪いてきたのだろうか。  溶けていくのか。散っていくのか。  深い、熱い溜息をついて目を閉じる。  甘やかな白檀の薫り。  溶けて。
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