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底のしれない肉体の慾は
あげ潮どきのおそろしいちからーーー
なほも燃え立つ汗ばんだ火に
火竜はてんてんと躍る
ふりしきる雪は深夜に婚姻飛揚の宴をあげ
寂寞とした空中の歓喜をさけぶ
われらは世にも美しい力にくだかれ
このとき深雪のながれに身をひたして
いきりたつ薔薇いろの靄に息づき
因陀羅網の珠玉に照りかへして
われらのいのちを無尽に鋳る
冬に潜む揺籃の魔力と
冬にめぐむ下萌の生熱とーーー
すべての内に燃えるものは「時」の脈搏と共に脈うち
われらの全身に恍惚の電流をひびかす
われらの皮膚はすさまじくめざめ
われらの内臓は生存の喜にのたうち
毛髪は蛍光を発し
指は独自の生命を得て五体に匍ひまつわり
道を蔵した渾沌のまことの世界は
たちまちわれらの上にその姿をあらはす
光にみち
幸いにみち
あらゆる差別は一音にめぐり
毒薬と甘露とはその筐を同じくし
堪へがたい疼痛は身をよぢらしめ
極甚の法悦は不可思議の迷路を輝かす
われらは雪にあたたかく埋もれ
天然の素中にとろけて
果てしのない地上の愛をむさぼり
はるかにわれらの生を讃めたたえる
(智恵子抄『愛の嘆美』高村光太郎)
〈fin〉
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