至る病

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 診察室に座る。医者は私へ、 「お気を悪くしないでいただけたらと思うのですが……一応確認をとらせていただきます。あなたは、食べたものを食後にわざと吐くことが頻繁にあるのですか?」  予想外の言葉に驚きながらも強く首を横に振る。医者は私へ両手を見せるように言った。私はそっと手のひらを差し出す。医者はそれを一度だけひっくり返し、「はい、ありがとうございます。では口も開けていただけますか?」と指示し、さっと口内を見た。医者はメモすら取っていない。 「あなたのお父様は、あなたが食べたものを毎日何度も吐き出しているとおっしゃっていました。このままでは痩せ細って、あなたは餓死してしまうと。ただ、私が見た限りあなたがそのようなことをしている形跡はありません。わざと嘔吐しようとすれば、大抵は歯で手を傷つけてしまうんです。そしてそこが角質化する。あとはまあ、歯の状態が悪くなることも特徴の一つですね。これは胃液の影響です。あなたの歯、とても綺麗ですよ。上手に磨けていますね。健康的な、理想的な口内でしょうね。肌艶もいいし、髪の毛も黒々と若々しく、年相応に美しい。栄養がしっかり摂れている証拠です。まあ確かに少しばかり華奢かなとは思いますが、それはあくまで華奢だというだけ、細身であるだけの話です。体質に依るものでしょうから無理に食べることも、もちろん減らすことも必要ありませんよ。現状のままの食事を続けていくことをお奨めします。つまり、私の診断結果は『極めて健康な十代の女の子であり、治療の必要はない』となりますね」  私は頷く。無音の隙間に父の叫び声が薄く混ざる。 「ただ、お父様に関しては少しばかり……検査が必要かと」  再び頷く。悲しくはなかった。助かったとすら思った。
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