至る病

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 タクシーに乗り込む。今後数日、父は検査という名目で入院するそうだ。そしておそらくそのままそこで暮らすことになる。いつまで続くかはわからない。  後部座席の窓越しに真夜中の街を見ながら様々なことを考えている。私は父の会社の電話番号を知らないが、ホームページを検索すれば解決できるだろう。父の入院道具をまとめる前には親戚に電話をかけ、事情を話して入院の承諾の書類にサインをもらえないか相談する必要がある。高校へも数日休むと連絡を入れて、近々振り込まなければならないはずの修学旅行のお金は少し待ってもらって、あとは――  礼を言ってタクシーを降り、極力音を立てないよう配慮しながら家に入る。  階段を上り、自室のベッドに腰掛けたところでふと自らの両膝が擦り剥けていることに気づいた。わずかだが出血があり、打撲の影響で腫れている。  怪我らしい怪我なんて数年ぶりだった。手当てしようと立ち上がり、リビングに向かう。小棚の奥から救急箱を取り出そうとして、それがあまりにも埃まみれであることに涙が出そうになる。未開封の絆創膏はとっくに使用期限が過ぎていた。  膝に触れる。流れ出た血はすでに固まっていて、指先にその赤色が移ることもなかった。
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