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朝――目覚まし時計がいらない生活を送り始めてからどのくらい経ったのだろう。今はもう、風の匂いと朝日の温かさで自然と目を覚ますことができる。
食にも困らない。海が荒れていなければ魚を釣ったり取ったりする。木になっているフルーツの取り方も、美味しい食べ方ももう覚えた。
この生活は最高だ――何にも囚われず、何にも支配されず、自由に、自然と共に、ただ自分のままに生きる。なんと原始的で、素晴らしい生活なのだろう。願わくば、ずっとここに住み続けていたい。
今日は天気もいいし、海に潜るか――そんな予定を頭の中で組み立てていると、ビルルルン!! と、この大自然に似つかわしくない電子音がけたたましく鳴り響いた。俺は急いで自分の基地に戻る。木の幹で立てたテント。ここで俺は寝泊まりしている。
「ちょっと、いつまでそっちにいるの!? いい加減帰ってきて!」
イヤーモニターを耳に当てた途端、ものすごい勢いで、妻の声が飛んできた。鼓膜が破裂しそうだ。
「で、でも……もうちょっとだけ。今日は天気もいいし」
「アンタ、一昨日もそう言って全然帰ってこなかったじゃない! いいから、今日は絶対ね! 庭の草むしり手伝ってもらうから」
俺は、小さく、はい、と答えて電話を切った。同じ自然に囲まれていても、鬼妻が隣にいるといないとでは雲泥の差である。
腰につけていたベルト。その表面に赤いボタンがある。俺はごくりとつばを飲んで、そのボタンを押した。あぁ、さようなら俺の自由な孤島ライフよ――
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