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ヒルメは頷いた。以前にフトダマから長い長い話を聞いたことがあった。フルワカという素晴らしい舞手の青年を寵愛していたが、父の嫉妬から彼を守るために手放したと。
「タケハヤはそのせいでウズメと共に育ったのだろう?だがフトダマは、それは父上の悋気(りんき)から来る誤解だったと言っていた」
ウズメは俯いて、小さな声で言った。
「嫉妬というのは醜くてつらいものです。私もヒルメさまに醜く嫉妬いたしました。だからこそわかるのです。今となっては、真実は意味を持たないのだと」
「……」
ヒルメは何を言ったら良いのか分からず、黙っていた。
「イザナミさまは体を悪くされて、タケハヤさまが最後のお子様になりました。イザナミさまはなぜかタケハヤさまにあまり興味がないようでした。私の母が乳母となって、私と共に育ててくれたのです」
タケハヤが健やかに育ったのは、フトダマとその妻のおかげだった。
その生い立ちから、表立たないようひっそりと育てられていたのだろう。タケハヤが自由な心を持つ素朴な少年に育ったのは、人間関係が複雑で陰鬱な父王の宮で暮らさなかったことが大きかったのだと想像できた。
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