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ヒルメが物心ついた頃には、母は病身で、ほぼ伏せっていた。見舞ってもずっと寝ていて、あまり話をしたこともない。ただ、他で見かけることのないような美貌の持ち主ではあった。
ほんのたまにだが、起きていることがあり、目を開けている母を見たときには、その匂い立つような美貌に声を失うことがあった。
小さな卵形の顔には完璧に整った目鼻があり、二重の大きな目は黒目がちで、潤んだように光っている。髪を侍女に整えさせる憂いを含んだ横顔は、娘のヒルメでもため息が出るほどだった。
元々は潑剌とした性格だったと聞いて、その頃の母に会いたかったとしみじみと思う。普通の親子のように笑い合ってみたかった、心のうちを明かして相談に乗って欲しかった。だがその願いは一度も叶えられずに終わりそうな気配が濃厚だった。
身支度を終えて父王の御前に進み出たヒルメは、思いがけない言葉をかけられた。
「今日男の童と話していたそうだな」
「……はい」
訝しい顔で父王を見つめる。何を言おうとしているのか全くわからなかった。
「あの者に近づくでない。あれは穢れを背負った子どもだ」
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