1章 母恋い

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ヒルメの目が大きく見開かれた。 「穢れを…」 ケシやタンポポと戯れる、利発そうな少年の顔を思い出す。 少しヒルメより年下の少年は、母が恋しいと泣きべそをかいていた。そんな少年が背負うような穢れとはいったいどんなものだろうか。 ヒルメはきっと眦を決して、言った。 「おっしゃっている意味がわかりませんが」 いつものヒルメならおそらく父が言ったことに反発することはなかっただろう。 イザナギは気難しい性格で、不機嫌になると黙り込み、威圧的になるので、あまり刺激しないようにするのが日常だった。だが今日のヒルメはとても黙ってはいられない気持ちだった。哀れな少年の様子を思い出し、その気持ちを代弁したかったのだ。 そんないつもと違う娘の様子に、イザナギは少し驚いたようだった。慌てたように、 「この話はもう良い。ヒルメ、わざわざ来てもらったのは、これからの政についてだ。そろそろ話しておいた方が良いだろうと思ってな」 ヒルメは黙っていた。イザナギは早く王位を娘に譲りたがっていた。退位してまだ年若い娘の陰からヤマトの政を死ぬまで牛耳りたいのだと、ヒルメは考えていた。
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