9章 帰還

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ただ、同父母兄妹での婚姻はそう多くはない。ヒルメの父母も、イザナギがイザナミをどうしてもと望んだからだという話だった。 (父上は母上以外と結婚しても、絶対に母上を手に入れると宣言したのだったな。不幸な女子を作らないためにも婚姻を許せと祖父を脅したのだと) 直情的な父らしいと思わず笑ってしまう。 母も父を好きだったから良かったものの、もし嫌がられていたら悲劇だっただろう。 (それほど想い合っていても、年齢を重ねるとすれ違ってくるのだな) 母が晩年には父を嫌って顔を合わせないようにしていたこと、体調を崩したときに可愛がっていた若者がいたことを聞いて、その時は動揺したヒルメであった。だが時を経るごとに母の気持ちが理解できるような気がしてきた。 子どもがお腹にいれば他の男の目にはつかないだろうという、おかしな悋気を父が抱いていたのがそもそもの発端である。夫の歪んだ愛を知った時の母の気持ちはどんなものだったろう。 ヒルメの世話をする宮女たちも、妊娠すると家に戻ることが多い。やはり子どもを産むことは一大事であるからだ。
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