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皆の上に立つ王妃が誰よりも無理をせざるを得なかったのは、哀れだとしか思えない。
お産は女子にとっては命を賭けた仕事だから、愛する人と成し遂げたい。そう思いながら夫とすれ違ったままタケハヤを出産した母である。幼い我が子の命を守るために離れて暮らすことを選んだ母が心底可哀想だった。
(私がもっと年長であったなら、母を助けることが出来ただろうに)
そう思うとただ辛いばかりだった。
考えに沈んでいると、ふと気配を感じた。
振り向くとタケハヤが立っていた。
真新しい麻の上衣に青空の色の帯を締めている。久しぶりに会う弟のために、拵えた衣装だった。
日焼けした顔に白の服がよく似合っていた。思わずヒルメは見惚れてしまい、気の利いた言葉が出てこなかった。
「声をかけたのですが、お返事がないので心配になって入ってきてしまいました」
申し訳なさそうに言う。
驚いて声が出せないヒルメに躊躇いなく近づいてくるとひざまづいた。
「姉上、先ほどは何も申せず…」
ヒルメは言いかけるその口元をそっと手で押さえた。タケハヤの身体がビクッと震えた。
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