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10章 破戒
(1)
「ヒルメさまのご様子ですか?」
サルタヒコに呼び出されていそいそと待ち合わせ場所に来たウズメは、思いもかけない質問をされて驚いた。サルタヒコはあまり表情を変えないほうだが、今日はいくぶん沈んだ雰囲気だった。
「あまりお変わりはないですが、タケハヤさまがお戻りになってからはやはり嬉しそうです」
「……そうですか」
そのまま踵を返そうとするサルタヒコに、慌てて
「サルタヒコさま!今日のご用件はなんだったのですか?」
なかなか会えないでいて寂しい想いをしていたウズメは、思わず咎めるような高い声で訊いてしまった。その不安気な白い顔を見つめると、少し考え込んでから、サルタヒコは静かに言った。
「言葉が足らずに申し訳ありません…私はもうひと月ほどヤマトに留められているのですが、その理由を聞いてしまって、少し動揺しているのです」
ウズメは目をしばたかせた。
「何か理由があって、留まられていたのですか?私はタケハヤさまのお目付け役で、このままヤマトにしばらくおられるのかと…」
サルタヒコは形の良い眉をひそめた。
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