10章 破戒

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その質の高い舞を舞うために、常日頃から鍛錬を欠かさないのだろう。父のフトダマも剣や弓の名手だった。 (母も巫女舞の名手だったという。なぜ私はその血を引いて生まれなかったのだろう) ヒルメは張りのある美しい声の持ち主で、神に捧げる祈りの言葉を奏上するときは周囲の者が惚れ惚れして、長い儀式の時間を忘れるほどだった。だが当の本人はそれを特筆すべきものだとは思っていないのだった。 (タケハヤと狩りに行けるようなすばしこさが私にあったなら良かったのに) ヒルメはあの夜から、出来るならタケハヤと離れていたくはなかった。いつでもその姿が目に入るところにいたかったが、それでは人目に立つことになる。 ヒルメは耐えるしかなかった。 狩りや馬での遠乗りに出られたならば、いつでも一緒にいられただろう。 タケハヤはとにかく体力があって、運動神経が人一倍良かった。馬を変えながら一日中走るようなことも出来たし、槍や剣、弓の扱いも大人顔負けだった。 タケハヤは相変わらず落ち着きがなく、一日中じっとしていることができないようだった。
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