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卓に頬杖を突いて物思いに耽るヒルメを現実の世界に引き戻したのは慌ただしい複数の足音だった。立ち上がって入り口の御簾を捲ると、サルタヒコがタケハヤを抱えている。だらんと下がった右腕は真っ赤に染まった布が巻かれていた。タケハヤはぼんやりとした表情で、その顔色は真っ白だった。
「タケハヤ!」
ヒルメは叫んで駆け寄った。
「何があった!?」
つかみかからんばかりの勢いのヒルメとタケハヤの間に、フトダマが割り込んだ。
「いけません、ヒルメさま。お目に入れませぬよう」
「なぜだ…あっ」
血は命の象徴。ヒルメたちが奉じる神々は命が失われることを大変嫌う。血を流すことはそのまま死につながると考えられ、女性の月経や出産も忌むべきものであった。
ヒルメは咄嗟に袖で顔を覆った。ちらっとサルタヒコがこちらを見て、目で頷いた。任せておいてくれと言っているようだった。
心配のあまり自分が神に仕える神聖な立場であることも忘れて飛びつきそうになってしまった。ヒルメは早く打つ胸の鼓動を感じながら、落ち着け、と自分に言い聞かせた。
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