10章 破戒

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ヒルメはぎゅっと目をつぶった。その瞼の裏には自分が命を救ったあのときのタケハヤの姿が映った。血まみれで、瀕死だったまだ幼いタケハヤ。 (あのとき私も命がけで救った。一つ間違えば共に母の元へ行っていただろう) ふと、ヒルメは思った。 あのとき父は、失われた母の命とタケハヤの命を取り替えると言っていた。 (あのとき、私が代わりになっていたら?母は蘇り、タケハヤは思い焦がれた母上に会えたのではないのか?) (ならば最もいらない命は、私なのではないか?) ゆっくり開いたヒルメの瞳には、まだ明るいはずなのに闇しか映らなかった。
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