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見舞いに行って、ヒルメはタケハヤに何が起きたかをやっと聞くことができた。
「誰かに手負いにされた猪が、藪から急に飛び出して来たのです。それでタケハヤさまは剣で切り掛かって、仲間を守ろうとなさったのです」
周囲から疎んじられていたタケハヤが心を許した数少ない人々がそこにはいた。おそらく何も考えずに身体が動いたのだろう。
「猪を仕留めはしましたが、最後の力で体当たりされ、崖から滑り落ちてお怪我を負われてしまって」
申し訳なさそうに言うサルタヒコに、ヒルメは首を横に振った。
「今はどうしていますか?」
サルタヒコは心配そうにタケハヤの部屋を振り返ってため息をついた。
「傷のせいで熱が出ています。ひどくならなければよいのですが」
体調が戻るまでヒルメはタケハヤに会うことは出来ない。切なかったが、これ以上タケハヤの評判を落としたくなかった。
(私が庇えば庇うほどタケハヤは憎まれる。そっと見守ることしかできないのか)
なすすべもなく自室へ戻る途中で、ウズメに出会した。ウズメも下を向いて、心ここにあらずという様子だった。
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