10章 破戒

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「ヒルメさま…」 ウズメの涙はいつのまにか止まっていた。 「やはりそうでしたか…ですが、先王さまは反対なさるでしょう」 ウズメは必死に言葉を探している様子だった。ふっくらした頬が上気している。 長い間一緒にいてわかったが、いつも朗らかで誰にでも思いやりを見せるウズメは、本当のところとても繊細な性格だった。相手に合わせて場の雰囲気を作るのが上手いのは、常に周囲に目配りをしているからである。 ウズメは緊張すると頬が赤らんだり、眉毛が忙しく上下したりする。すぐ近くにいるからこそわかる、ほんの少しの差だった。ヒルメはウズメを見つめながら言葉を継いだ。 「父上と母上もご兄弟であった。だとすれば大っぴらに反対されることはないだろう。自分たちの婚姻関係を否定するようなことはできぬだろうから」 ウズメは唇を固く引き結んで、言葉を飲み込んでいるようだった。しばらく場を沈黙が支配していたが、思い切ったようにウズメが口を開いた。 「事の真偽は別として、イザナギさまはイザナミさまの不貞を疑っていらしたと聞き及んでおります」
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