10章 破戒

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コヤネが目をかけたのは、王の息子だったからだけではなかった。ツクヨミは努力家で、学ぶことが好きだった。大人でも難しい国の仕組みや政を学び、運用することに意欲的だった。それがコヤネにはとても好もしかった。 周囲から先王時代と変わらず尊敬を集めていたコヤネが推す王子ということで、ヒルメが知らないうちに、ツクヨミは宮びとの信頼を得ていたのである。 「姉上、お顔の色がすぐれませぬが」 部屋に入ってきたツクヨミに言われて、ヒルメはため息をついた。 「このところどこが悪いわけでもないのだが、疲れるの。それで仕事を手伝ってもらいたくて、声をかけたのです」 作業用の卓上に散らばる木片を手早く片付けながら、ヒルメは答えた。その手元をじっと見つめながら、ツクヨミはぽつりと言った。 「姉上はイズモ文字をお使いになっているのですね」 ヒルメはハッとした。 手元の書き付けは宮びとがあまり使わない、遠い国で使われる文字でわざわざ書いていた。ヒルメは自分の心のうちもこのイズモ文字で書いていたが、確かに自分より数段賢いツクヨミがこの文字を読めないはずはなかった。
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