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常軌を逸した父の言葉に、全身が凍るようだった。母と最後に交わした会話を思い出す。
(あの人は産まれたばかりのカグツチも殺した。私のためだと言って)
カグツチとは、ヒルメのすぐ上の兄の名前だった。産まれてすぐ亡くなったとは聞いていたが、まさか父の手にかかったとは。母が今際の際に言った言葉を半信半疑で聞いていたが、父の今の姿を見れば真実であったろうとヒルメは感じていた。
いつもは勝ち気で冷静なヒルメの背中を冷たい汗が伝って行った。自分も命を落とすかもしれない。だが、目の前で言葉を交わした少年が命を奪われようとしている事態を黙って見ていられるヒルメではなかった。
まして命を奪おうとしているのは自分の父だった。
カグツチの話が本当だとしたら、すでに父は罪を犯している。これ以上父に罪を重ねさせるわけにはいかなかった。
父はどの兄弟たちより、跡取りに選んだヒルメを可愛がっていた。その愛情が時間稼ぎに繋がるはずだった。ヒルメは心を決めた。
「そこをどけ、ヒルメ。その子どもは殺さねばならない。穢れた子ども、私の子ではない、汚れた子どもだ」
「…それは、どういう意味ですか?」
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