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1章 母恋い
(1)
ヒルメは芥子の花畑で、可愛らしい薄朱色の花を愛でていた。遊んで欲しくてまつわりついてくるひとつ年下の弟をなんとかまいて、ひとりになってホッとしたところだった。
ヤマト王国の世子として、夜明け前に起きてから眠りにつくまで、ずっと誰かと一緒のことが多く、孤独癖のあるヒルメにはそれが苦痛だった。
ヒルメはやっと15歳になったばかりだが、ずっと大人びて見えた。体調を崩しがちな母に代わり、国の祭祀は今やヒルメの仕事であったし、父と共に国事も行っていた。幼い頃からいずれ女王になるのだと、厳しく育てられてきた。
「この花はなんていうの?」
背中から声をかけられて、すっかり気を抜いていたヒルメは飛び上がるほど驚いた。振り返るとそう離れていないところに男の子が立っていた。
「キレイだなあ。お母さまにあげたいなあ。手折ってもいい?」
「ダメだ!」
手を伸ばす男の子にヒルメは思わずきつい口調で言ってしまった。巫女が祈りを捧げたり、国の為に占いを行う時に、この花から採れる薬を使うのだ。
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