16人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
「どうした、花を摘んでいってやらないのか」
男の子は下を向いて黙っていた。
「喜ぶぞ、ほら。この花は今が盛りだ」
「やっぱり、いいよ」
男の子は小さな声で言った。
「会えるか、わからないんだ」
ヒルメは目を丸くした。
「母上はご病気か?」
男の子はこくんと頷いた。
「お父さまは私を嫌っていて、お母さまに会わせてくださらないんだ。私がお母さまを呼んであまりに泣くから、二度と会わせないっておっしゃって」
「そうか」
ヒルメは目の前の少年が哀れになってきた。よく見ると利発そうな顔をしている。秀でた額を縁取る黒い巻毛や、栗色の大きな二重の目、すこし先の丸い高い鼻とふっくらした唇。野性味はあるが、整った顔立ちで気品があった。
(豪族の誰かの子どもだろうか)
生来大人びた性格のヒルメは、同じ年頃の子どもには興味がなかった。まして王の子どもで、将来国を治めることになるであろうヒルメには、友だちと呼べる同世代の仲間もいなかった。
目の前の少年は、ヒルメより少し年下のようだった。弟と同じぐらいの年だろう。背丈もヒルメより少し小さい。髪も結わずに切り下げにしているのが、一層彼を幼く見せていた。
最初のコメントを投稿しよう!