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「母上さまはお悪いのか?」
ヒルメの問いに少年は小首を傾げた。
「もうずいぶん長く会えていないから…」
「そうなのか」
幼なげな少年が無性に哀れになった。
ヒルメの母も、伏せって長く経つ。
国母であり女王でもある母は、ヒルメが物心ついた頃には伏せっていることが多かった。たまに面会を許されても、甘えたり世間話を出来るような雰囲気ではないのは、幼いヒルメにも理解できた。
ヒルメにはあまり詳しくは聞かされていないが、母はずいぶん何度も出産を経験していて、それで体調を崩しているということだった。ヒルメのすぐ上の兄を出産したとき、母は長く生死の境を彷徨ったようだった。兄は産まれてすぐにみまかったが、母は嘆く力さえ残っていなかったと聞いたことがある。
父王は、母以外に妃を持たなかった。その想いの深さは子どもの目から見ても少し異常に見えるほどだった。確かに母はとても美しく、頭も良く、心映えも清々しい女性だった。
同父母から生まれた兄妹同士の婚姻であったが、当時はそう珍しいことではなく、むしろ同じ年頃で気心も知れているので、人生が終わるまで仲睦まじく過ごす夫婦が多いと言われていた。
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