1章 母恋い

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また、王族や豪族などが、自らの血統を純粋に保つために兄弟姉妹、従兄弟同士、あるいは叔父叔母と甥姪など、血族内で婚姻関係を結ぶことも多々あった。 数人の妃を持つ王が多い中で、父王は変わった存在なのかもしれない。 複数の妃を持つというのは、子どもをたくさん得るためという側面があるが、母は一人で10人以上の出産を経験していた。その意味では十分以上に王妃としての役目を果たしていると言えるだろう。 ヒルメは同じ王宮に住みながら、まだ会ったことのない兄弟がいるとも聞かされていた。ヒルメは兄弟の中でも下の方で、すでに遠国へ嫁いだ姉や、他国へ学びに出ている兄もいるらしかった。 兄弟姉妹でさえ顔も合わせていない者がいるのに、豪族の子弟であれば尚更名前も顔も知らなくても不思議はない。 「そなたの名はなんと言うのだ?私の名はヒルメだ」 年長で、身ごなしや服装からも自分より身分があるとわかるヒルメに先に名乗られ、しどろもどろになりながら、少年は答えた。 「タケハヤ…。」 「そうか、タケハヤか。強そうな名前だな」 ヒルメはにっこり笑って、たんぽぽの種をふっと息で飛ばした。
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