1章 母恋い

7/20
前へ
/176ページ
次へ
           (2) 自分の部屋に戻ると、父の使いの者が待っていた。 「昼の祭祀は終わったが、何の用だ?」 年嵩の男性に向かって、ヒルメはきつい口調で言った。先ほどの少年との会話の余韻を楽しみたかったのに、邪魔された気がしていた。 「父王さまがお呼びです」 ヒルメの剣幕に驚き、男はおどおどと答えた。ヒルメはため息をつき、侍女を呼んだ。 「王の元へ参るぞ。召し替えを」 目の前にいる男がまるでいないかのように支度を始める。宮びとは目のやり場に困って固く目をつぶって下を向くしかなかった。 ヒルメにはこういう気性の激しさがあった。頭が良く、普段は落ち着いていて冷静だが、ひとたび何か気に入らないことがあると口をきかなくなったり、態度が荒々しくなったりする。 13歳という年齢を考えれば全く不思議ではないのだが、普段の大人びた様子を皆が知っているから余計にその落差を感じるのだろう。 ヒルメの気性の激しさ、気難しさは父譲りであり、また聡明さも同じく父譲りであった。 ヒルメは父から全てを受け継いでいるような印象のある子どもだった。容姿も性格も、父に良く似ていた。だからこそ父を敬遠しているところがある。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加