1章 母恋い

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父の気持ちも他の者よりよくわかる。だからこそ、反発してしまうのだった。 ヒルメは王の前に出る時は、一風変わった髪型にしていた。 素直な漆黒の髪は量が多く、他の女性たちが結うような髪型だと収まりが悪い。そのために普段は簡単に一つに結んで垂らしているのだが、王はそれをとても嫌った。王妃が寝付いているとき、髪を結わずにいるので縁起が悪いというのだ。娘まで身体を壊されては堪らないという気持ちなのだろう。 ヒルメが選ぶのは、襟足で2つ、玉のように丸く結い、余った髪を垂らした髪に梳き込んで膨らめる、とても凝った髪型だった。玉みずらという名がついて、王族の限られた女性にだけ許される髪型だった。結うのにも時間がかかるので、その間に気持ちを切り替えることも出来た。 (父上のご用とはなんだろう) ヒルメは父が愛する晴れた空の色を映した衣に着替えて、鏡の前に立って思案した。 父はヤマトの大いなる王、イザナギである。ヤマトは歴史のある国ではあるが、イザナギの代になって急激に大きくなり、遠くの国まで従わせるようになっていた。 王妃である母イザナミは重い病を得て、もう数ヶ月も部屋に引きこもったまま祭祀は娘に任せきりだった。
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