序 章

1/1
前へ
/176ページ
次へ

序 章

ヒルメは隣で安らかな寝息を立てる青年の整った顔を見つめた。 癖のある前髪がほつれて額と頬に絡んでいる。そっと手で直しながら、ついつい笑みがこぼれてしまう。 (愛おしいとはこういう気持ちをいうのか) 物心ついた頃から厳しく育てられ、誰よりも秀でることを運命付けられていた。神に最も近くあるために、常に孤独だった。大人はまだ幼い自分にかしづき、決して本音を明かそうとはしなかった。 誰からも可愛がられた思い出はない。母に抱かれたことも、父に褒められたこともない。血の繋がった弟でさえ、慕うというよりは自分を崇拝していた。 (大いなる孤独が今終わろうとしているのだ。もう私は1人ではない) ヒルメは微笑みながらゆっくりと目を閉じた。このささやかな幸せが長く長く、どちらかの死が2人を分かつまで続くようにと祈った。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加