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序 章
ヒルメは隣で安らかな寝息を立てる青年の整った顔を見つめた。
癖のある前髪がほつれて額と頬に絡んでいる。そっと手で直しながら、ついつい笑みがこぼれてしまう。
(愛おしいとはこういう気持ちをいうのか)
物心ついた頃から厳しく育てられ、誰よりも秀でることを運命付けられていた。神に最も近くあるために、常に孤独だった。大人はまだ幼い自分にかしづき、決して本音を明かそうとはしなかった。
誰からも可愛がられた思い出はない。母に抱かれたことも、父に褒められたこともない。血の繋がった弟でさえ、慕うというよりは自分を崇拝していた。
(大いなる孤独が今終わろうとしているのだ。もう私は1人ではない)
ヒルメは微笑みながらゆっくりと目を閉じた。このささやかな幸せが長く長く、どちらかの死が2人を分かつまで続くようにと祈った。
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