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私、佐藤っていいます。よろしくお願いします。私の話って、特別怖い話とか変わった話とかじゃないですけど、いいんですか?
いいんなら、お話します。
小学生の頃の同級生に、T美って子がいたんです。私とは何だか気が合って、よく一緒に遊んでました。T美は結構可愛い子でしたが、よく嘘をつく子でもありました。
本当に、息をするように嘘をつく子だったんです。
最初はまだ他愛もないものでした。あそこでUFOが飛んでるのを見たとか、近くの神社でお化けを見たとか。ただ、T美って、ただ言うだけじゃなかったんですね。UFOの時はフリスビーとか飛ばしてそれっぽい写真を撮ったり、お化けの時は白い布を木の枝に引っ掛けておいたり、そういう小細工とセットなんです。まあすぐにバレるんですけどね。
学年が上がるに連れて、T美の嘘は悪質になって行きました。人の宿題を写しておいて「自分でやった」と言うのは序の口で、物を借りておいて返していないのに「返した」と言い張ったり、ネットで見た素敵な画像をプリントして「自分が作った」と言ったり。
大人しそうで可愛い顔立ちをしてましたから、男女問わずだまされる人は何人かいましたけど、それでも女子の大半には嫌われてましたね。
軽くハブられることもありましたが、T美みたいな子は先生の覚えは良いんです。「いじめられてる」と担任の先生に訴えるんで、みんな渋々仲間に入れてましたね。もちろん、T美はいじめられてなんかいません。避けられてるだけで。
中学、高校と進学して行くと、変な言い方ですけど嘘のつき方も上手くなって行きました。小学生の時はほとんど誰もだまされなかったけど、その頃にはかなりの人がだまされるようになっていたんです。後でバレることも多かったですが、嘘をついたその時だけはみんな面白いようにだまされていました。
大学生になる頃には、T美はすっかり詐欺師みたいになってました。ラブラブなカップルの双方にないことないこと吹き込んで別れさせたり、ついでにその双方をつまみ食いしたり。……あ、T美、バイセクシュアルなんで、男性とも女性とも出来るんです。
おこづかいを出してくれる人も何人もいましたから、いつも何かしらのブランドものを身につけてましたけど、T美によると全部偽物だそうです。
「だってこっちのが安いし。それに、自分にはこっちの方がお似合いでしょ」
T美自身は身の丈に合っていると言ってましたが、ある意味自虐でもあったんでしょう。
大学を卒業すると、もうT美は本格的に人をだまして生活するようになってました。何人もの人からお金を巻き上げ、バレそうになると仕事をやめて住所を変え、名前を変え、また同じことを繰り返すんです。ずっと、そうやって、今に至るまで。
……ここまで話すとわかりますよね、ええ、T美って、私のことです。もう、顔も名前も、あの頃とは違います。履歴書に書く学歴も職歴も、本当のことなんて一切ありません。
他の人のこととして語らないと、もう本来の身の上すら語ることが出来ないんです。今の話だって、所々嘘が入ってます。
多分私、嘘に取り憑かれてるんですね。嘘を一つつく度に、私の中に自分のついた嘘が溜まって行って、私をどんどん嘘に染めて行くんです。もう、私の頭の先から足の先まで、嘘が詰まっているんですよ。やめたくても、もうこうなっては他の生き方なんか出来ません。
ここ、秘密って守ってくれるんですよね? ……ああ、そうですか。まあ、誰かに言っても別にかまわないんですけど。その時には、多分私は別の顔で別の名前になってるでしょうから。
そうですね、例えば……私、今、どんな風に見えてます? セミロングの黒髪、偽ブランドのドレスやバッグ、フェイクレザーのベルト、模造宝石のネックレス。
うふ。実はね、私、全身整形してるんです。
……私、生まれた時は男性だったんてすよ。
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