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私は、同じ団地に住んでいる琴音ちゃんが大好きです。でも琴音ちゃんは、みんなに嫌われています。
みんなというのは、私より小さな保育園の子供たちとか、おじいちゃんくらいの大人とか、団地のみんな、全部です。
ここの団地に住んでいない人は、琴音ちゃんの容姿を見たらお人形さんのようだと思うでしょう。
背も普通の小学二年生の大きさだし、とくべつ汚い訳でもありません。
でも、嫌われています。
なぜなら、琴音ちゃんは不思議な子供だったからです。
例えば。
団地内で遊んでいた時。琴音ちゃんはふと思い出したように斎藤さんのおばあちゃんの膝を触って「ここ、明日怪我する」とか、三階の奈々姉ちゃんの指を掴んで「この指、明日カッターで切れちゃう」など、とつぜん不吉な預言をするのです。
もちろんみんな、冗談だと思って笑いました。ですが、琴音ちゃんの真っ直ぐに切り揃えられた前髪から覗く黒水晶のような瞳に見つめられてしまうと、未来で起こるその事故があたかも決定事項のような気がして、言われた人は笑顔を引き攣らせてしまうのです。
しかし、みんな預言に怯えるのに、何事もなく一日が終わると、琴美ちゃんにみんな文句を言います。
「人が不幸になるような嘘をついて楽しいか? あんたのせいで昨日一日嫌な気分だったわ」
「何も起きなかったよ! なんであんな事言ったの」
目をつり上げて怒る顔を、私は琴音ちゃんのそばで何度も見ました。しかしどんな文句も、琴音ちゃんは「良かったね」と返します。
そうすると、怒った人はさらに真っ赤になり、赤鬼のようになります。
「嫌な餓鬼だ」と田中のおじいちゃんが琴音ちゃんの腕を叩いた事もあります。
なのに、琴音ちゃんは預言をします。
時刻も場所もバラバラの預言ですが、同じなのは“怪我をする”といった内容でした。
しかし言われた人が怪我をする事はなく、そのうち琴音ちゃんは、“嘘つき琴音”と呼ばれるようになりました。
でも、琴音ちゃんは嘘つきではありません。
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