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私は知っています。
団地の人たちが琴音ちゃんの予言通りの怪我をしなかったかわりに、琴音ちゃんの膝や指にはアザができる事を。
琴音ちゃんが嘘つきになってしまうのは、みんなの怪我を琴音ちゃんがもらってしまうからです。
琴音ちゃんが初めて“力”を使ったのは、私のためでした。
五歳くらいだったと思います。その日、私と琴音ちゃんは、お昼ご飯を食べたら団地内の公園で遊ぼうねと約束をしていました。
先に家を出たのは私。琴音ちゃんが走って来たのは、私がすべり台をすべって降りようとした時でした。
「ひかりちゃん、すべっちゃだめ!」
大人しい琴音ちゃんが、大きな声で言いました。びっくりしましたが、私はもうすべりはじめていました。
すべり台は小さくて、私はすぐに地面に着地しました。しかし、その時私の左指は、何故かざっくりと切れていました。
どうやら、すべり台の手すりの一部が、錆びが浮いて尖っていたようでした。
痛みよりも、自分の指から溢れる血が赤すぎて、驚きました。涙は出ませんでした。その代わり、琴音ちゃんが私の左指を両手で包みながら、わんわんと泣きました。
「痛いね、ひかりちゃん痛いね。治って。早く治って。痛いのなくなって。ひかりちゃんの痛いの、どっか行っちゃえ」
泣きながら琴音ちゃんが必死に言います。その時、どうしてか分かりませんが、何となく私は琴音ちゃんの体が光っているような気がしました。
琴音ちゃんの両手に包まれた私の左指が、しゅわしゅわと泡に包まれているような感じがしました。
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