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琴音ちゃんと田中のおじいちゃんの光景に、私の頭の中は真っ白になりました。
みんなは知らない。
琴音ちゃんの優しさを。
琴音ちゃんの気持ちを。
「……琴音ちゃんは、おじいちゃんを助けてたんだよ! 琴音ちゃんが『怪我する』って言った時は、みんな怪我をしてたんだ! でも怪我してないのは、琴音ちゃんがみんなの怪我を吸い取ってたからって、知らないんだ!」
私の大声に、周りにいた人達はいっせいに振り向きました。
私は心臓がばくばくとして、顔も耳も真っ赤になってたと思います。
田中のおじいちゃんが「糞ガキ共が」と言っても、私は怖くありませんでした。それよりも琴音ちゃんを叩いた事が、許せなかったのです。
「琴音ちゃんが触らなかったから、そこ、怪我をするよ。怪我をしてから謝ったって遅いんだからね」
田中のおじいちゃんの右肘を指さし、私は言い捨てました。そして琴音ちゃんの腕を引き、私たちを捕まえようとするおじいちゃんから逃げました。
琴音ちゃんは泣きながら私についてきました。きっと琴音ちゃんの心は、守りたい気持ちを拒絶されて、血は出なくても大きな切り傷ができてしまってます。そんな琴音ちゃんの傷を、私も治せればいいのに。
そう思っていると、私も涙が出ました。琴音ちゃんが傷を吸い取ってあげたいと思う気持ちが、少し分かりました。
外で怒り狂う田中のおじいちゃんの声を聞きながらうちの押し入れに隠れて、私たちはお互いに抱きしめあいました。心の傷を少しでも治せるように。
そうしている内に、私たちは眠ってしまいました。
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