琴音ちゃん

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***  次の日学校から帰ると、団地の前に救急車が止まっていました。団地全体がザワザワしています。  人垣は団地の花壇の所に集中していました。  私が近寄って覗いてみると、真ん中には担架に乗せられた田中のおじいちゃんが居ました。  地面には真っ黒な大きな染みが出来ていて、おじいちゃんの体はところどころ、赤く汚れていました。  私は、ああやっぱりと納得しました。  昨日琴音ちゃんに触って貰えなかったから。  特に可哀想とも思わず、むしろいい気味だと思いながら見ていると、斎藤のおばあちゃんが私に気付きました。 「ちょっとひかりちゃん。昨日言ってたの本当なのね。田中さん、転んで草刈りの鎌で右のここ、肘の部分をね、ざっくり切っちゃったのよ。ひかりちゃん昨日言ってたわよね? 琴音ちゃんが怪我を吸い取ってるって」  担架を見ていたはずの周りの大人が、斎藤のおばあちゃんの言葉でこちらに振り返りました。昨日の出来事を知っている人は、知らない人にも説明しています。  今まで“嘘つき琴音” と呼んでいた人も、その場にたくさんいました。私は琴音ちゃんの名誉のために、はっきりと言いました。 「そうだよ。今まで琴音ちゃんの嘘だと思ってた怪我の話は、琴音ちゃんがみんなを守ってたから、起きなかったんだよ」  これで琴音ちゃんは、嘘つきだなんて言われなくなる。みんな、琴音ちゃんのしたことに感謝する事になる。    自分の事でもないのに、何故か私は誇らしい気分で言いました。    でも、こんな事、言わなければ良かったのです。
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