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探偵は汗をかかない
「先生! 先生! 先生!」
僕はいつもよりも焦っていた。あ、僕と言っても赤毛のショートヘアがよく似合う可愛い17才の乙女だ。それに焦っていたのは初めてかもしれない。とにかく僕は勢いよく、通いなれた如月探偵事務所の扉を開けたのだ。
事務所の奥、窓を背に小さなデスクがある。それに不釣り合いな大きな肘掛けチェア。そこに仰け反った姿勢で開いた本を顔に乗せた操り人形がいた。
「先生!」
僕はデスクにドンと両手を置くと、マリオネットに呼び掛けた。するとゆっくりと顔の上の本をデスクに置いて、視線だけこちらに向けた。
「まったく。いつも煩いな自称赤毛ショートがよく似合う可愛い乙女くんは」
「き、聞こえてたんですか」
「誰に向かって言ってたんだい」
ヒョロリとしている先生が、背もたれに全力で寄りかかり手足をダラリと垂らしている姿は、糸が切れたマリオネットみたいだ。
「そんな事より! て。いつも以上にやる気ないですね。どうしたんですか先生」
「その先生って言うのも止めてもらえるかい自称助手くん。未成年が勝手に依頼を受けて小遣い稼ぎをするまでは目を瞑ってあげるとしてもだ」
視線を外さずに顔だけのっそりと向ける姿に思わず唾を飲み込んだ。
「はい。せん、コールさん」
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