2.ただ一つの不正解

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「……お気に召しませんでしたか?」  つい難色を示した俺の顔を覗って、一関くんは声のトーンを落とした。表情や姿勢からも、まるで叱られた大型犬のような雰囲気が漂っていて、こちらの罪悪感を刺激する。 「あ……いや、ごめん。一関くんは悪くないよ。あまりに立派なものをもらって、びっくりしただけで」 「羊羹は嫌いでしたか?」  別に嫌いではないけれども、渋いチョイスだなとは思った。高校生同士でやりとりするお菓子ではない気がする。 「そんなことないよ。俺、甘いもの好きだし。他の部員もきっと喜ぶよ」  正直突っ込みを入れたいことは多々あるが、あまり言うと一関くんが気に病んでしまうと思ったので、そんな社交辞令でお茶を濁す。  他の生徒会の面々の意図がどうあれ、一関くんは真っ当な善意でこれを持ってきてくれたのだ。悲しませるようなことはしたくない。  しかし、彼の顔はなかなか晴れない。  居たたまれなくなった俺は、咄嗟にあることを思いついた。 「そうだ、一関くん。どうせ箱開けちゃったし、今ここで一緒につまみ食いしない?」  羊羹十個に対して部員は七人。一人一個配るには少し余る数だ。 「みんなに行き渡る分は残るから大丈夫。だから、ちょっとフライングして食べちゃおうよ」 「金ヶ崎先輩がそうする分には自由ですが、俺までいただくわけにはいきません。自分達のお詫びなのに……!」  突然ともいえる俺の提案に、一関くんはそこそこ狼狽していたものの、先ほどまでの悲壮感は薄れたように見える。  その反応に手ごたえを感じて、俺はやや強引にこちらのペースに引き込む。 「固いなあ、一関くんは。俺も同罪だし、気にせず便乗しちゃいなよ。二人だけの秘密。ね?」  逃げ出さないようにその腕を掴んで引き寄せ、戸惑う彼を誘導して椅子に座らせる。俺もその隣に着席した。 「ほらほら、どれにする? 今なら選び放題だよ」 「い、いえ、本当に結構ですから……」  箱を指差して促すものの、一関くんはなお遠慮がちだった。  そうなると、こちらも段々意地になってしまう。 「もう、しょうがないなあ」  俺は箱のなかから個包装されたミニ羊羹を一つ取り出し、その包みを剥いて彼の口元へと近づけた。 「どうぞ召し上がれ」
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