河野海人

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「あのぉ……すみません……殺人課って……」  できるだけ小さな声で言ったにも関わらず、その場にいた全員の視線が俺に突き刺さる。  いや、わかってるよ。俺だってわかってるよ。市役所にそんな課があるわけねぇってことくらい。半信半疑で来たんだ。だから、そんな目で俺を―― 「殺人課は三階です」  無機質に伝えられた必要最低限の情報。その言葉を合図に、俺を見てフリーズしていたなにもかもが息を吹き返したように、慌ただしく動きだす。 「え?」 「三階です、殺人課は」  ご丁寧に階段はそちらですと手のひらで示される。  マジか。マジであんのか。殺人課。もうここまできたら俺だって行くしかない。単なる噂だと思っていた『殺人課』が警察ではなく市役所にあるというんだ。  しかも、それは――殺人のの申請書を提出する場所なのだから。
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