三日後に散るのを待っている

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 今年は桜の開花が早かった。  毎年この時季になると、いつもは調べもしない天気予報や桜の開花予報なんかをスマホでチェックしてはそわそわしている。だいたい咲きはじめるのが三月下旬。満開になるのが四月上旬。  桜がちょうど見頃を迎えるのを待ち構えるように、あの人はこの街を訪れる。  数日前、僕からメッセージを送った。「今年はいつ会えますか」と入力し、少し考えて「今年はいつ来ますか」に打ち直して送信した。返事はまだ来ない。  散り急ぐ桜も、明後日の雨の予報も、無言を貫くスマホも、まるですべてが、僕とあの人の時間を奪い去ろうとしているみたいだ。  不貞腐れて酒とつまみを買いにやって来たスーパーで、なんとなくスナック菓子の売場をうろついていたとき、尻ポケットで僕のスマホが震えた。 三日後の午後三時、いつもの場所で待っています。 デエトしましょう。  あの人からの返信だった。スマホを握りしめる手が汗で湿った。表情筋を引き締めておかないと、しぜんと口角が持ち上がってしまう。デエトなんてちょっと気取った表記も、いかにもあの人らしい。  上機嫌で目当てのスナック菓子をひと袋 手に取り、そのままレジに並ぶ。酒とつまみとスナック菓子が順にリーダーにスキャンされていくのを見守り、会計金額を告げられて、でもどうして三日後だろう、と僕は財布片手にはたと首をかしげた。  だって三日後にはもう、桜は散ってしまっているだろうから。
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