三日後に散るのを待っている

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「ねえ、いつか言ったよね。たとえ好きじゃなかったものでも、気がついたら好きになってるって。人を好きになるのはそういうことだって」 「……」 「僕は、あのビールの味、好きになったよ」 「……」 「このスナック菓子の味、好きになってくれた?」  あの人は口を閉ざしたままだ。僕は辛抱強く待つことにした。そのあいだも、手汗が気になってしまうものだから、恋というものはほんとうに厄介だ。手をつなぐというだけで、力加減に迷って、手汗を気にして。僕自身がまるごとつくりかえられていく。 「……スナック菓子なんて、好きになりたくなかったよ」  ようやくこぼれ落ちたあの人からの返事に、葉擦れの音が重なる。 「僕とじゃ、嫌?」 「ちがうよ。わたしの負け」  ぎこちない手つきで、あの人も指を絡めてくる。触れた指先から、何かが身体中に流れ込んできて、僕を満たした。 *** 「次のデエトはいつにする?」 「次かあ……ていうか、今まで年に一度会ってたのはデエトだったの?」 「ちがうよ」 「ちえっ。じゃあ、今日は?」 「そうだね……今日からは、デエト」  この街は、あの人にとってつらい思い出のある場所だ。けれど、その過去を押して、あの人はこれからもこの街を訪れる。僕に会うために。  あの踏切で、桜が咲かなくなったとしても。                 Fin.
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