三日後に散るのを待っている

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「あれ?」  機械的に動かしていた手を止め、あの人はつまんだスナック菓子を僕にも見えるように高く持ち上げた。 「なんか形がちがう……」 「ちょ、おばさんそれレアなやつだよ!」  スナック菓子のかけらを口から飛ばして興奮する僕に対し、あの人は「おばさんって言った?」と冷ややかだ。僕が「オネーサン」と言い直すと、あの人は満足して涙の乾いた顔で晴れやかに笑った。化粧はどろどろに溶けて見るも無惨で、それでも思わず見惚れた。 「きみはいい男になるね。だから、わたしみたいに、大事にしたいと思った人を悲しませちゃだめよ」  大事にしたいと思った人。そのフレーズを僕は口の中で繰り返す。  人並みにだれかを好きになったことはある。想いを寄せられたこともある。でも、僕が知っているのは、シーソーのような恋だった。求めて、求められて。どちらかが過剰になると破綻してしまう。一方的で、盲目的な無償の愛というやつを、僕は信じていなかった。  あの人は僕に何も求めない。今傍にいて、子どもみたいな笑顔を見せているのは僕なのに、きっとあの人は僕の優しさを望まない。僕はそれが素直に寂しかった。  ほんとうの意味で、僕がこの人を大事にできるのか、わからない。でも、そこでためらってはいけなかった。僕とあの人をつなぐモノは、細くて頼りなくて、僕がしっかり握っていないと、あっけなく途切れてしまう。そんな予感がして、僕は口を開いた。 「じゃあ、連絡先、教えてよ」
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