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「不謹慎だよ、お供え物がビールって」
「いいの。好きなものを供えてあげたほうが、彼も嬉しいでしょう」
あの人が持参するのはビールと決まっている。それも、けっこう値の張るやつ。以前、安いのとはのどごしがちがう味がちがう、とあの人が力説していたので、試しに飲み比べてみたのだが僕にはちがいがわからなかった。
あの人は持参した一本を遮断機の足元に置き、もう一本のプルタブを開け、ビールを呷った。
「真っ昼間から飲んで、悪い大人だなあ」
「お子さまのきみに、大人の味は早いね」
そう揶揄って、あの人が差し出したのは炭酸ジュースのペットボトルだ。うんと甘いやつで、あの人の中で僕はまだ制服を着ていたガキと変わらないのだと悲しくなった。
「来月の誕生日迎えたら飲めるもん」
やさぐれつつ、すでにビールの味見を済ませたことは黙っておいた。受け取ったペットボトルの蓋を開けて口に含む。
「最初はね、何が美味しいのって思ったの。みんなそんなものよ」
「ビールのこと?」
口からこぼれそうになった炭酸ジュースを手の甲で拭い、訊ねた。あの人がどれほどの飲んだくれか、週末のテレビ通話をとおして知っているだけに、意外だった。
「苦くてね。ちっとも好きじゃなかった。でも、彼が好きだったから」
「ふうん」
「だからね、人を好きになるってそういうこと。きみはまだそういう相手に出逢っていないだけよ」
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