三日後に散るのを待っている

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 言葉尻に、拒絶されたのだと、はっきりわかった。そして同時に、試されているとも。僕はそれまで、面と向かって自分の気持ちを言葉にしてこなかった。しかし、そこはかとなく態度や声ににじみ出るものがあったのだろう。あの人は僕の気持ちに気づいている。気づいているから、拒絶するのか。気づいていて、試そうとするのか。あの人の本心は視界を埋め尽くそうとする桜の花びらに紛れて、どこまでも見えない。  踏切の警報音が鳴り響いて、あの人の目つきが遠くなる。僕も緊張して下りてくる遮断機の向こうを見やった。この音は心臓に悪い。あの人が今にも、線路に駆け出していってしまいそうで。あの人の目には、そこにだれかが映っているのかもしれない。あの人がそこに立っていてほしいと願うひと。  列車は何事もなく通過して、また静寂が訪れる。僕の隣であの人がまたビールを呷った。空になった缶を供えた缶の隣に置いて、あの人は吹っ切るように僕を見た。 「さあて、今日はどこに連れてってくれるの?」 「地ビールが美味しいとこ」 「……きみ未成年でしょ?」 「大学の先輩に教えてもらったんだよ」 「じゃあ安心だ」  こんなくだらない会話をしているときは、あの人との距離が近くなったと錯覚する。それに舞い上がって僕から一歩踏み込むと、あの人は一歩退く。あの人と僕の関係は、線路のレールのように平行線を描いていた。だから僕は、年に一度、桜の時季に顔を合わせるのをデエトと呼ぶことすらできなかった。
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