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『結婚するもしないも、君には関係ないよ』
顔に微笑みを乗せ、優しい声音で、けれどそれとは裏腹に、僕の言葉はその子を突き放す。
『先生にだってプライバシーがある。いくら生徒とはいえ、プライベートなことまで教えてあげられないよ』
その言葉は言外に、君はその他大勢の生徒と変わらないよ、と言っていた。
本当は違う。
この子は僕の特別だ。
だけど、この子は僕に関わってはいけない子なんだ。
これ以上、踏み込まれたくない。
もしも僕の心に触れてしまったら、きっと僕は・・・。
『さあ、もう帰りなさい。部活もしていない君の帰りが遅くなったら、親御さんが心配するよ』
早くここから出て行けと言わんばかりに、僕はその子に背を向ける。なのに、その子は体ごと僕にぶつかり、後ろから抱きついてきた。
『先生が好きなんです!』
体とともにぶつけてきたその言葉に、僕は反射的に腕を振りほどいてその子から逃れた。
心臓が壊れたように早鐘を打つ。けれど、それに気づかれないように、僕は務めて冷静な声で言った。
『それは勘違いだよ』
『勘違いじゃありません。オレは先生に初めて会った時から、ずっと前から知っているような気がしました。先生を思うだけで胸がどきどきして、先生を抱きしめたくなるんです』
その子は僕の言葉にそう言葉を続けた。まるで僕たちが運命で結ばれていると言うかのように。けれど僕は、その言葉にゆっくり首を振る。
『それは運命ではないよ。ただの記憶だ。僕と君はかつて同じ家に住み、生活を共にしていたから。君は僕にとても懐いていて、いつも抱っこをせがんでいた。そのときの記憶が、君の頭の片隅に残っていただけだよ』
その言葉にその子は絶句する。だから、僕はさらに続けた。その子の思いを留まらせたかった。それは勘違いだと分からせ、僕への思いを消したかった。
『僕と君は兄弟だよ』
僕の放った言葉は、その子の心を傷つけただろう。
でもそれは君のためだよ。
実の兄にそんな気持ちを抱いてはいけない。
けれど、僕はその子の想いの大きさを見誤っていた。そして、僕が思うよりもずっとその子は成長していたのだ。
僕の言葉に顔色を変えたその子はいきなり、僕に襲いかかった。
殴られると思い咄嗟に腕で顔を覆った僕は次の瞬間、床に仰向けに倒されていた。
『なんでそんなうそをつくの?』
僕に馬乗りになったその子は僕の肩を信じられないくらいの強い力で押さえつけ、辛そうな顔を僕に近づけた。
『うそじゃ・・・』
ないよ、という言葉はその子の唇に遮られた。
キスと言うにはあまりに乱暴に、ぶつかるように押し付けられたその唇は僕の口にかぶりつき、開いたそこから舌をねじ込んできた。
あまりのことに一瞬体が固まる。けれど、我に返って抵抗するも、思いのほか強いその力に僕はその子を引き剥がすことが出来なかった。
乱暴な、けれど必死なその舌使いに僕の抵抗はいつしか無くなり、されるがままに口内を犯される。
どれくらい唇を合わせていたのか、とっくにぼやけた頭が唇を離されても動くことが出来なかった。
『そんなうそまでついてオレを拒絶するなんて許さない。そんなことできないようにしてやる』
その子は僕のシャツに手をかけ、半ば引きちぎらんばかりに前を開いた。そしてそのあらわになった胸に舌を這わせる。
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