うそつき

4/5
149人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
いつの頃からだろう。 小さな可愛い弟が、僕の中で男になったのは・・・。 最初は勘違いかと思った。 思春期に入り、他の子たちが異性に向ける体の欲求が、僕には起きなかった。 いや、欲求は起きた。だだし、それが異性ではなかったのだ。 僕が初めて夢精したのは、弟の夢を見たときだ。 内容は忘れてしまった。ただ、別れた時は小さかった弟が僕の中で勝手に成長していて、僕を組み敷く存在になっていた。 実際の年齢はまだ子供のはずなのに、夢の中では大人になり、僕を抱きしめていたのだ。 大人の弟に組み敷かれ、抱きしめられるところまでしか覚えていなかったが、朝の惨状を見たら、恐らく夢の中で僕は弟に犯されたのだろう。 そしてそれに喜んで射精した僕は、なんて不潔で汚らわしいのか。 実の弟に欲情し、夢の中とはいえ犯され、果てたのだ。 何かの間違いだと思った。 百歩譲って僕が同性愛者だと認めよう。だけど、その相手が弟だったのは、僕の身近にいたのが弟だけだったからだ。だから弟が出てきただけで、弟に抱かれたいわけじゃない。 僕はそう思って、思いたくて、同性と付き合うようになった。 けれど、僕は抱かれる時、決まって目を瞑る。瞑ってしまう。 今僕の上にいるのはあの子だ。キスをし、胸をまさぐり、そして押し挿入(はい)ってくるのは・・・。 そんな思いで抱かれても、長続きなんてしなかった。 短い付き合いと別れを繰り返し、疲れた僕は一夜の相手を探すようになった。その時はもう、認めざるを得なかった。僕は弟が好きだということを。だからいつも、弟に面差しが似ている人を探した。大きくなったら、きっとこんな顔だろう。目元、口元、指先。ひとつでも弟と似ているところがある人と、一夜だけベッドを共にした。 清いはずの弟は、毎晩僕に汚されていく。だけど、もう二度と会えない存在。それでも構わないと思った。 夢の中だけでもいい、僕は弟に抱かれたかった。それがどんなに罪深い行いであったとしても・・・。 だからあの入学式の時、あの子の姿を見て動揺した。 散々僕の中で汚し、堕としめたあの子が目の前に現れたのだから。 弟は、僕の想像よりもキレイで美しかった。 そしてその、あまりにも清らかな姿に、想像でも汚してはいけないと思った。 その日から、僕が求める夜の相手はあの子と正反対の人になった。 何も考えられないくらい、激しく犯されたい。 目を閉じても激しく体を開かれ、突かれ、考える間もなく快感の渦に飲み込んでくれるような、そんな人を選んだ。 早く、弟を忘れなくてはならないと思ったから。 なのにあの日、あの夏の暑い日、あの子は僕のところに来て、僕を抱いた。 本当は抗わなければいけなかった。 生徒で、中学生で、同性で、そして弟。 どれひとつとっても、僕たちが体を深く繋げていい理由なんてなかった。 だけど僕にはそれが出来なかった。ずっとあの子を求めていたのだ。 あの子に抱かれたくて、どうしようもなくて、一夜の男に身を委ねていた僕は、目の前にいる本物に抗えなかった。だから、あの子に止めて欲しかった。勘違いだと、気の迷いだと、そう思わせたくて兄弟だと告げたのに・・・。けれどそれは逆効果となり、余計にあの子を焚き付ける形になった。 でもある意味、僕の告白は成功したようだった。 あれからあの子は、僕の前に現れなくなった。恐らく、母親に聞いたのだろう。そして知ったのだ。僕達は紛れもなく兄弟だということを。 知らなかったとはいえ、犯してしまった過ちに罪の意識を感じてしまったのか。それとも、実の兄を抱いたことへ嫌悪しているのか。 とにかく、あの子はあれから一切僕と関わりを持たなくなった。 もう、あの視線を感じることも無い。 あの子はあの日を後悔しているかもしれないけど、僕にとってはかけがえのないものとなった。 あの日の思い出が、あの子の感触が、僕に生きる理由を与えた。 この記憶があれば、僕は生きていける。 あの子の触れた体を他の人に触れさせたくなくて、僕は一夜の相手を探すのをやめた。 そして誰にも心を動かされず、ただただあの子を思い、日々を過ごした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!