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いつの頃からだろう。
小さな可愛い弟が、僕の中で男になったのは・・・。
最初は勘違いかと思った。
思春期に入り、他の子たちが異性に向ける体の欲求が、僕には起きなかった。
いや、欲求は起きた。だだし、それが異性ではなかったのだ。
僕が初めて夢精したのは、弟の夢を見たときだ。
内容は忘れてしまった。ただ、別れた時は小さかった弟が僕の中で勝手に成長していて、僕を組み敷く存在になっていた。
実際の年齢はまだ子供のはずなのに、夢の中では大人になり、僕を抱きしめていたのだ。
大人の弟に組み敷かれ、抱きしめられるところまでしか覚えていなかったが、朝の惨状を見たら、恐らく夢の中で僕は弟に犯されたのだろう。
そしてそれに喜んで射精した僕は、なんて不潔で汚らわしいのか。
実の弟に欲情し、夢の中とはいえ犯され、果てたのだ。
何かの間違いだと思った。
百歩譲って僕が同性愛者だと認めよう。だけど、その相手が弟だったのは、僕の身近にいたのが弟だけだったからだ。だから弟が出てきただけで、弟に抱かれたいわけじゃない。
僕はそう思って、思いたくて、同性と付き合うようになった。
けれど、僕は抱かれる時、決まって目を瞑る。瞑ってしまう。
今僕の上にいるのはあの子だ。キスをし、胸をまさぐり、そして押し挿入ってくるのは・・・。
そんな思いで抱かれても、長続きなんてしなかった。
短い付き合いと別れを繰り返し、疲れた僕は一夜の相手を探すようになった。その時はもう、認めざるを得なかった。僕は弟が好きだということを。だからいつも、弟に面差しが似ている人を探した。大きくなったら、きっとこんな顔だろう。目元、口元、指先。ひとつでも弟と似ているところがある人と、一夜だけベッドを共にした。
清いはずの弟は、毎晩僕に汚されていく。だけど、もう二度と会えない存在。それでも構わないと思った。
夢の中だけでもいい、僕は弟に抱かれたかった。それがどんなに罪深い行いであったとしても・・・。
だからあの入学式の時、あの子の姿を見て動揺した。
散々僕の中で汚し、堕としめたあの子が目の前に現れたのだから。
弟は、僕の想像よりもキレイで美しかった。
そしてその、あまりにも清らかな姿に、想像でも汚してはいけないと思った。
その日から、僕が求める夜の相手はあの子と正反対の人になった。
何も考えられないくらい、激しく犯されたい。
目を閉じても激しく体を開かれ、突かれ、考える間もなく快感の渦に飲み込んでくれるような、そんな人を選んだ。
早く、弟を忘れなくてはならないと思ったから。
なのにあの日、あの夏の暑い日、あの子は僕のところに来て、僕を抱いた。
本当は抗わなければいけなかった。
生徒で、中学生で、同性で、そして弟。
どれひとつとっても、僕たちが体を深く繋げていい理由なんてなかった。
だけど僕にはそれが出来なかった。ずっとあの子を求めていたのだ。
あの子に抱かれたくて、どうしようもなくて、一夜の男に身を委ねていた僕は、目の前にいる本物に抗えなかった。だから、あの子に止めて欲しかった。勘違いだと、気の迷いだと、そう思わせたくて兄弟だと告げたのに・・・。けれどそれは逆効果となり、余計にあの子を焚き付ける形になった。
でもある意味、僕の告白は成功したようだった。
あれからあの子は、僕の前に現れなくなった。恐らく、母親に聞いたのだろう。そして知ったのだ。僕達は紛れもなく兄弟だということを。
知らなかったとはいえ、犯してしまった過ちに罪の意識を感じてしまったのか。それとも、実の兄を抱いたことへ嫌悪しているのか。
とにかく、あの子はあれから一切僕と関わりを持たなくなった。
もう、あの視線を感じることも無い。
あの子はあの日を後悔しているかもしれないけど、僕にとってはかけがえのないものとなった。
あの日の思い出が、あの子の感触が、僕に生きる理由を与えた。
この記憶があれば、僕は生きていける。
あの子の触れた体を他の人に触れさせたくなくて、僕は一夜の相手を探すのをやめた。
そして誰にも心を動かされず、ただただあの子を思い、日々を過ごした。
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