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 俺は屈むと、ひたひたになったティッシュをつまみ上げてゴミ箱に入れながら訊いた。 「約束してたのにってこと?」 「……一年と知り合ったから、そいつと帰っていいかって」  何でこれしきの事で絶望しているのだろう。  そもそも、「そいつと帰る」じゃなくて「そいつと帰っていいか」と言ってる時点で相当五條が優先されていると思うのだが、何がそんなに不安なのだろう。 「…………よく知らんけどそれ、五條も一緒に三人で帰ったらダメなの?」 「でも、大野木はその相手と帰りたがってる……、俺よりもそいつと。どうして、どうしてどうしてどうして」  ぶつぶつと「どうして」をループし始めた五條を見上げながら、コーヒー臭いティッシュをゴミ箱に入れ終える。 「そんなに不安なら理由聞いてみりゃいいじゃん」 「俺と帰りたくないって言われたら? そんなのもう死ぬしかない」 「大丈夫だって、大野木はそんな奴じゃないだろ」  五條は口を噤んだ。正直、五條も大野木がそんなこと言うやつじゃないのはわかってる。  でも、こいつは神様に二物も三物も与えられていながら、どうやら自分のことが好きじゃないのだ。  だから、大野木はそんなことをしないが、自分はそうされても仕方ない人間だと思ってしまうらしい。  スマホを持って理由を尋ねようか否かを悩む五條から、俺はスマホを取り上げ、通話ボタンを押す。  慌てて取り返そうとした五條を避けてサークル室の隅に行くと、すぐ発信音が途切れ、低めの声が響いた。 『五條?』 「あ、ごめん、今五條のスマホ借りてるんだ」  明るい声が返ってきた。 『玉本か?』 「うん。そういやこの前英文の和訳手伝ってくれたから、お礼に何かコンビニスイーツでも奢ろうかなって思って、この後五條と一緒にお前のとこ行こうかなと思ってたんだけど、今日都合悪い?」  通話の音量を少しだけ上げた。五條をそっと手招きすると、五條もスマホに耳を近づける。
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