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『別に気にしなくていいのに。……ちょっと新入生と知り合って、まだこの辺りに慣れてなくて、道に迷いやすいから中々散策も出来ないらしくてな、案内してやろうかと思って』 「……スマホのマップ機能でどこでも行って帰れるはずだろ。大野木を狙ってるに決まってる」  五條が低く独り言をつぶやいた。 『玉本? 何か言ったか?』 「いや、サー室いるからちょっと騒がしいんだ。案内なら五條も一緒に連れてけば? あいつおしゃれな店とか詳しそうじゃん」 『でも、この辺り色々歩き回るだけだから、付き合わせても五條はつまらないかと思ったんだ』  乱暴に俺の手からスマホがもぎ取られる。 「そんなことないよ! 俺でよければ手伝わせて? その新入生が嫌じゃなければだけど」 『いいのか? ありがとう五條』  大野木はおおらかすぎるところがあるので、五條が急に会話に乱入しても何も気にせず話を続けている。  そういう性格をいいなと思っているけれど、それで五條を引き付けているところが多分にあるので、大変そうだなとも思う。 「じゃあ今から行くね。……正門近く? わかった」  五條が慌てて荷物をしまい、サークル室を駆け出して行った。俺は自分が何か忘れているような気がしていたが、ミヒカさんに呆れた視線を向けられるまでそれがなんだかわからなかった。 「玉本―……、馬鹿だねえ。何で帰らせたの」  五條が帰っちゃいけない理由があっただろうかと思ってはっとした。 「…………あ、議事録」  大野木至上主義の五條が、議事録を終わらせてから大野木と合流するなんてそんな優しさを持ち合わせているわけがなかった。 「僕がしようか」  先輩が首を傾げて尋ねたが、現役の部員かどうかも怪しい先輩にはさすがに頼みにくかった。 「いや、いいです。俺が招いた事態なんで……」 「色川さんにやらせちゃいなよ。あんまり役に立ってないんだから」  ミヒカさんの言葉を拗ねたように無視して、先輩は先程まで五條が座っていた椅子に腰かける。 「なんだ、ほとんど出来ているよ」 「五條、仕事はできるんですよ。仕事より大野木優先しちゃうだけで……」  先輩はカタカタとキーボードを叩き始める。プロの作家だから、速いんじゃないかと勝手に思っていたけれど、タイプはそんなに速くなかった。  ――意外だな。 「あの、先輩、いいんですか? 俺やりますよ」 「いいよ。その代わり、ラインに返事が欲しいんだ」 「ライン?」  さっきのグループラインか何かだろうか。しばらく自分のスマホを触っていないから、まだ確認していなかった。
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