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ミヒカさんが俺の肩を叩く。
「玉本、今回本当に頑張ったから、今日はもう帰って大丈夫だよ。三年の兼部勢とかも全然仕事出来てないし、そっちに振っておくから」
そこまで言われたら、帰った方がいいのだろうかと思い始めて、俺は先輩たちにぺこっと頭を下げて、サークル室を後にした。
外は晴天だった。春は好きな季節だ。そわそわして不安になるけど、空気が暖かくて柔らかい。
――あ、ライン。
スマホを取り出そうとすると、詰め込み過ぎたポケットから、一緒に文庫が滑り出て、落ちた。
「あ」
今日は細身のパンツを履いていたせいで、引きずられて一緒に落ちてしまったのだなと、ぼんやりどうでもいいことを考えながら文庫を拾ってポケットに押し込む。
どうでもいいことを考えたのは、あんまりその本の表紙だとか、内容だとかを思い浮かべたくなかったからだ。
スマホでラインを確認すると、グループラインには先輩からドーナツとコーヒーを買った旨が送られ、ありがとうございますとか喜んでいるスタンプの返信が並んでいた。
そして、俺個人にも色川先輩からラインが来ていた。
[色川]ドーナツは君にと思ったんだ
「?」
送信された時間はグループラインとほとんど変わらなかった。
これに返事をすればいいのだろうか。というか、意味がよく分からない。ドーナツは全員分あったし、何のことだろう。
そう思ってしばし画面を眺めていたら、ぽこんとフキダシが増えた。
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